Akiさんの「あなたの納得はチームには関係ない」を読んで、かなり刺さった。決まった方針を「実は自分も反対なんだけどね」と添えて伝える上司のことを、評論家型と呼んでいる。
決定は伝える。ただし、自分の採点コメントつきで。決定から距離を取ったまま、実行責任だけを下に流してしまう。そのうえでAkiさんは、決定を正しいと思う必要はないし、納得も要らないと書いている。正しいと思うことと、コミットすることは別のもの。決まったら、自分の言葉でコミットして、成功させる側に立つ。
ただ、納得は後からも作れると思っているし、その技術の方がポータブルで便利とも感じる。なのでこの記事では、決定を伝える上司ではなく、反対していた自分を主語にして考えてみる。
Amazonのリーダーシップ・プリンシプルにある Have Backbone; Disagree and Commit は、ざっくり言うと「反対なら決まる前にちゃんと言う。決まったら全力でコミットする」というもの。言葉はシンプルだけど、やるのは難しい。いろんな人がまとめてくれているけど、改めて自分なりに分解して、雑に書いておきたい。
Disagree and Commit は、自分の推しじゃない行き先に決まった旅行に近いと思う。温泉に行きたかったのに、幹事の判断で山に決まった旅行を想像してみる。行き先会議ではなんとなく「温泉もいいよね」くらいしか言えず、決まった後も「温泉がよかったな」が頭から抜けない。現地でもいまいち乗り切れないまま、なんとなく終わってしまう。たぶん一緒に行った人もあまり楽しくない。
評論家型はまさにこれで、旅行中ずっと「本当は温泉がよかったんだけどね」と言っている人だ。じゃあどうすればよかったのか。行き先会議、予約、現地の3つに分けて考えてみる。
3つの場面
1. 行き先会議で推しをプレゼンする(負けても乗れる Disagree をする)
決まる前の反対は、遠慮するものではなく、むしろやるべきこと。ただ、Disagree and Commit の Disagree は、勝つための反対ではないと思う。負けたときにちゃんと Commit できる反対の仕方がある。逆に、言い負かすことにこだわると、負けたときに乗れなくなる。
「温泉、ただし遠い」まで言う
自分の推しの弱点も先に言っておく。そうすると信用されるし、山に決まっても「まあ遠いしな」と手放しやすい。
推しには点数をつける
「温泉は8点。宿のグレードは3点くらいで、正直どっちでもいい」みたいに伝える。こうしておくと、負けたときに引きずるのは8点のところだけになる。何にでも全力で反対していると、その反対はだんだん聞いてもらえなくなる。
山の景色から褒める
「山もいいよね、景色は絶対いい」と、相手の推しを一番いい形で言ってから自分の推しを話す。ちゃんと聞いてもらえるし、実はこれ、山に決まったときに自分が楽しむための種まきにもなっている。
「どこ行く?」の前に「何しに行く?」
「温泉がいい」ではなく「今回は疲れを取る旅にしたい」と言う。行き先の勝ち負けになる前に目的が揃っていれば、山に決まっても「じゃあ山でどう疲れを取るか」に頭を切り替えられる。
2. キャンセル無料でも、キャンセルしない(決定に区切りをつける)
Disagree と Commit の間には、どこかで区切りが要る。区切りがないと、決まったのか決まっていないのか曖昧なまま、なんとなく実行が始まる。ルビコンモデルという心理学の考え方では、人は「選ぶ」ときと「やる」ときで頭の使い方が違うらしい。その間を行ったり来たりしている状態は、本人にとってもけっこうしんどい。
ここで面白いのが、戻せる決定ほど区切りがつけにくいこと。Jeff Bezos は、決定を「戻せない一方通行のドア」と「戻せる双方向のドア」に分けて、戻せる決定は判断力のある個人や少人数で素早く決めればいいと書いている。でも戻せる決定ほど、「どうせまた変わるし」と半身で乗りやすい。本当は逆で、戻せる決定こそ全力で乗った方が早く結果が出て、戻すかどうかも早く判断できる。旅行でいえば、キャンセル無料の宿ほど気持ちが乗らないのと同じだ。
「これで確定?」と聞く
決まったのか、まだ候補なのか分からないまま準備を始めると、温泉の可能性を頭の片隅に残してしまう。幹事に「これで確定?」と一言聞く。確定と言われたら、そこが区切りになる。
キャンセル無料でも、キャンセルしない前提で準備する
キャンセル無料の宿ほど、「まだ変わるかも」と思って準備が後回しになる。でも、行くつもりで準備した方が早く楽しみが見つかるし、本当にやめるべきかも早く分かる。
スクショに「楽しみ!」と返す
幹事が予約のスクショを貼ったら、温泉派だった自分こそ「楽しみ!」と返す。あれで自分の中でも「もう行くんだ」と区切りがつく。反対していた人の一言は、みんなにとっても区切りになる。
「山がいまいちなら次は温泉」を先に決めておく
温泉派の気持ちは捨てずに、次の行き先の条件にしておく。戻す条件が決まっていれば、今回は安心して全力で山を楽しめる。
3. 現地で自分なりの楽しみ方を見つける(Commit する理由を自分で見つける)
区切りをつけたら、あとは自分なりの理由を見つける番。人は他人に渡された理由より、自分で考えた理由の方に納得しやすい(セルフパースエージョンというらしい)。行きたかった場所じゃなくても、現地で自分なりの楽しみ方を見つけると意外と楽しくなる。仕事も同じだと思う。冒頭で書いたように、納得は後から作れる。やる理由を自分で探しているうちに、気づいたら納得している。
着いた日は宿でごろごろする
移動の疲れが抜けるまでは、無理に楽しもうとしなくていい。自分の場合はモヤモヤも3日くらいで整理がつくので、それまでは寝かせておく。
しおりは自分で書く
人が作ったしおりより、自分で調べて書いたしおりの方が、ずっと楽しみになる。ガイドブックを見る前に「なぜ行くか」を自分の言葉で書いてみる。
名物を1つ見つけたら勝ち
行きたかった場所じゃなくても、名物が1つ見つかると急に楽しくなる。山の全部が嫌ということはまずない。「ここは確かにいい」と思える場所が1つ見つかると、そこから乗っていける。
寒そうなら上着を持っていく
「山は寒そう」と思ったら、心配するより準備に変える。山を不安に思っていた人が一番そのリスクに詳しいので、Disagree の中身がそのまま Commit の武器になる。
ちなみに幹事側に回ったときは、しおりを分刻みで作り込みすぎない方がいいのかもしれない。全部決めてしまうと、みんなが自分で楽しみ方を探す余地がなくなるから。ついでに、幹事が「Disagree and Commit で!」と言うのもちょっと危ない。「文句言わずに来てね」に聞こえてしまう。この言葉は、反対した側が自分で選ぶものだと思う。
Commit は次の Disagree への貯金
1と2は型を知っていればわりとできる。3は難しいけど、一番大事なのも3だと思う。
それに、全力で乗った実績は残る。負けた決定にもちゃんと Commit してきた人の Disagree は、次に聞いてもらえる。Commit は、次の Disagree への貯金みたいなものかもしれない。
どうしても受け入れられない決定は、見直し条件を満たしたときや新しい事実が出てきたときに、改めて正面から Disagree すればいい。旅行中ずっと「温泉がよかった」と言い続ける人にだけは、ならないようにしたい。