「vibe coding」——AIにコードを書かせて、自分は方向性だけ示すスタイル。 2025年、Collins Dictionaryの年間ワードに選ばれました。
誰でもコードが書ける時代、ブログ記事の作り方も変わるはずです。 テキストだけでなく、インタラクティブな表現も選択肢に。 これはその可能性を探る、実験です。
01
バイブコーディングの時代
2025年2月、OpenAIの共同創業者であるAndrej Karpathyが「バイブコーディング(vibe coding)」という言葉を生み出しました。
“You just see stuff, say stuff, run stuff, and copy paste stuff, and it mostly works.”
ただ見て、言って、実行して、コピペする。だいたい動く。
要は、AIにコードを書かせて、自分は方向性だけ示す、というスタイルです。 マーケターがランディングページを作り、デザイナーがプロトタイプを動かし、 ライターがインタラクティブな記事を書く。 「作り手」と「使い手」の境界が溶け始めています。
その証拠に、バイブコーディングを前提としたスタートアップが急成長しています。
バイブコーディング経済圏
$6.6B
Lovable評価額
2025年12月時点。$500M超を調達。Alphabet・Nvidia・Accel等が出資。
成長速度を体験 — スライダーで時間を進めてください
ローンチから 0ヶ月
Lovable ARR
従来のSaaSユニコーンが$100M ARRに到達するのに
~7年
従来
8ヶ月
Lovable
11× 速い
↑ スライダーを右に動かして、成長速度を体感してください
さらに興味深いのは、「コードを書く人」の定義が変わりつつあることです。 マーケターが、デザイナーが、起業家が——職種を問わず、 アイデアを持つ人が自分でアプリを作り始めている。
AIで実現した開発事例
Growth Marketer
Lambo Levels
Joe Frabotta
暗号通貨の含み益を可視化するツール。ChatGPTでプロンプトを練り、Lovableで構築。
プロダクトマネージャー
Vibe Draw
GMOメイクショップ社員
バナー制作効率化アプリ。自然言語でリクエストするだけでイラスト素材を生成。
事業開発
ファイル転送サービス
ASOLAB社
自社ブランドのファイル転送サービスを24時間で開発。月額$20のツールのみ使用。
Product Manager
ポートフォリオサイト
Michael Lembo(BitGo)
自身の経歴に答えるAIチャットボット付きポートフォリオ。AI栄養計算機も開発。
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つまり、「コードを書く」行為が、エンジニアリングだけでなく、 マーケティングやグロースの領域でも武器になり始めています。
Vibe Coding の衝撃
話題になった事例
Fly.Pieter.com
Pieter Levels(インディーハッカー)
ゲーム開発経験ゼロ。Cursorで3時間で作ったフライトシミュレーターが爆発的にバイラル。Elon Muskもリツイート。
パーソナルWebアプリ
Sundar Pichai(Google & Alphabet CEO)
「CursorやReplitでバイブコーディングしてる。今この瞬間にコーダーでいられることが楽しい」と公言。
AI生成コード
Satya Nadella(Microsoft CEO 発言)
「社内リポジトリのコードの20〜30%がAI生成。Pythonは素晴らしい結果」
Base44
Maor Shlomo(創業者)
「ソフトウェアの世界を誰にでも開放する」。2月ローンチ、6月に$80Mキャッシュで売却。
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もちろん批判もあります。Andrew Ngは「バイブコーディングという言葉は誤解を招く」と指摘していますし、 「開発地獄」に陥るケースも報告されています。万能薬ではない。 でも、可能性の扉が開いたのは確かです。
だから、ブログ記事も変わる
エンジニアでなくてもコードが書けるようになった。 コードが書けるということは、「動くもの」を作れるということです。
従来のブログ記事は、テキスト、画像、せいぜい埋め込み動画まで。 情報を「伝える」ことはできても、読者が「試す」ことはできませんでした。
でも、コードがあれば話が変わります。 数字を入れて計算させる。パラメータを変えて結果を見る。 データをグラフで見せて、ホバーで詳細を表示する。 読者が操作しながら理解を深める——それがインタラクティブ記事です。
有名な例
2012年、New York Timesが「Snow Fall」という記事を公開しました。 雪崩事故を追ったこの記事は、スクロールするたびに動画やアニメーション、 シミュレーションが展開される革新的な体験でした。
公開から6日間で350万PV。Pulitzer賞を受賞。 「to snowfall(スノーフォールする)」という動詞が業界用語になるほど、 インパクトのある作品でした。
同じくNew York Timesの「You Draw It」シリーズでは、 読者がまず自分で予測を描いてから、実際のデータと比較します。 「予測 → 答え合わせ」というシンプルな仕組みが、記憶の定着を促す。 研究でも、こうした能動的な関与が学習効果を高めることが示されています。
でも、作るのは大変だった
こうした記事を作るには、従来は専門チームが必要でした。 エンジニア、デザイナー、ライター、データアナリスト—— 8人で数週間かけて、ようやく一つの記事が完成する世界。
Bloombergには30人のデータジャーナリズムチームがいます。 The Puddingも、フルタイムのスタッフが各自リサーチからコーディングまで担当する体制。 個人が片手間に作れるものではありませんでした。
——でも今は、1人で週末だけでも作れる。 その差を、実際に体験してみてください。
インタラクティブ記事の4つのパターン
それぞれ触って、「読む」との違いを体験してみてください
01 ホバーで詳細
マウスを乗せると情報が現れる
↑ 触れてみて
02 段階的に表示
クリックでストーリーが進む
タップして開始 →
03 予測→答え合わせ
AIでコスト何%減ると思う?
50%
04 データ可視化
同じデータ、違う見せ方
従来: 8人 × 4週 = 32人週
AI時代: 1人 × 0.5週 = 0.5人週
64倍の効率化
ホバー、クリック、スライド、トグル——
読むだけでは得られない「手触り」
ホバーで詳細を見る、ステップを進める、予測してから答え合わせ、データを切り替えて比較する—— 同じ情報でも、操作できると理解の深さが変わる。 これがインタラクティブ記事の可能性です。
この形式、実は長い歴史がある
02
インタラクティブ記事の系譜
こうしたアイデアは、バイブコーディング以前から存在しています。
2011年
Explorable Explanations(探索可能な説明)
Bret Victorが「操作できるドキュメント」の概念を提唱。読者が著者の仮定を変えられる記事という発想。
2012年
Snow Fall(雪崩)
New York Timesがスクロールテリングの原点となる記事を発表。Pulitzer賞を受賞。
2017年
The Pudding 設立
データジャーナリズムを「視覚的エッセイ」として発信。D3.js + Svelteを駆使。8人のフルタイムスタッフ。
2025年
Vibe Coding(バイブコーディング)時代
Karpathyが「vibe coding」を提唱。Collins Dictionary年間ワードに。AIで誰でもコードが書ける時代へ。
Timelineの先頭にある2011年。この年、Bret Victorが「Explorable Explanations」というエッセイを発表しました。
Victorの問題意識はシンプルでした。「人々はテキストを『消費する情報』として捉えている。 私はテキストを『思考するための環境』として使いたい」——と。
“A reactive document allows the reader to play with the author's assumptions and analyses, and see the consequences.”
リアクティブなドキュメントは、読者が著者の仮定や分析を操作し、その結果を見ることを可能にする。
Source: worrydream.com/ExplorableExplanations
静的なテキストでは、読者の思考は「内的で見えないまま、曖昧で推測的」にとどまる。 でも、インタラクティブなドキュメントなら、読者は著者の仮定を変更し、その結果を自分の目で確認できる。 読むことが、能動的な「検証」になる。
Explorable Explanation — スライダーを動かしてみてください
15%
受動的に読む
(ただ読むだけ)
vs
17%
能動的に関与
(操作・思考・検証)
定着率の差
1.1×
スライダーを右に動かして、能動的関与の効果を確かめてください
※ 数値はFreeman et al. (2014)等の研究を参考にした概念モデルです
Nicky Case: 遊びながら学ぶ
Bret Victorの思想を最も見事に体現しているのが、Nicky Caseです。カナダ出身のインディーゲームデザイナー兼ウェブクリエイター。 彼女の作品は「複雑なシステムを理解させる」という一貫した目標を持っています。
代表作「The Evolution of Trust」は、ゲーム理論の古典を30分で体験できるインタラクティブ作品。 説教臭くない。むしろ楽しい。そして、気づいたら学んでいる。 これが「遊びながら学ぶ」の真髄です。
囚人のジレンマ ミニ体験
「The Evolution of Trust」の核心となるゲーム。あなたの選択は?
3つの戦略を10ラウンド自動で回し、「誰が得をするか」を見比べてください
10ラウンド比較シミュレーション
相手は「しっぺ返し」(80%であなたの前回の手をコピー、20%ランダム)
A: ずっと協力
信頼貯金型
シミュレーション中...
B: 信頼→試す→合わせる
しっぺ返しに近い
シミュレーション中...
C: ずっと裏切り
短期利得狙い
シミュレーション中...
再生して結果を比較してください。
再生すると10ラウンドの推移と合計が並列で見られます。
何度も繰り返すと、協力し続けるのが最適解になる——これがAxelrodの発見
上のミニゲームは「The Evolution of Trust」の核心部分を再現したものです。 何度かプレイすると気づくはず——短期的には「裏切り」が得に見えても、 長期的には「協力し続ける」方が双方にとって得になる。 これは「読んで理解する」のと「体験して納得する」のでは、定着度がまったく違います。
Nicky Caseの作品は多岐にわたります。社会科学、心理学、政治学—— どれも難しいテーマを「体験」に変換している。
Nicky Case 代表作品
ゲーム理論 / 信頼
The Evolution of Trust(2017)
ゲーム理論の古典「囚人のジレンマ」を30分で体験。なぜ信頼は崩れ、どうすれば築けるのかを遊びながら理解できる。
→ サイトを見る
社会科学 / バイアス
Parable of the Polygons(2014)
Vi Hartとの共作。「ちょっとした偏見」がなぜ社会全体の分断を生むのか。ドラッグ操作で体感する分離のメカニズム。
→ サイトを見る
メディア / 分極化
We Become What We Behold(2016)
5分で遊べるゲーム。何を報道するかを選ぶだけなのに、社会が分断されていく。メディアと分極化の風刺。
→ サイトを見る
システム思考
Loopy(2017)
システム思考を「お絵かき」で。ループを描くだけでシミュレーションが動く。プログラミング不要のモデリングツール。
→ サイトを見る
心理学 / 神経科学
Neurotic Neurons(2015)
不安はなぜ生まれるのか?ニューロンの仕組みと認知行動療法(CBT)の原理をインタラクティブに解説。
→ サイトを見る
政治学 / 投票システム
To Build a Better Ballot(2016)
選挙制度の問題点と代替案。ドラッグで投票をシミュレートし、なぜ現行制度が機能しないかを視覚化。
→ サイトを見る
↑ カードをクリックすると実際のサイトへ
彼女のブログには 「How I Make Explorable Explanations」 という記事もあります。「説明したいことをゲームにする」プロセスが詳しく書かれていて、とても参考になる。
「ゲームにする」プロセス
Nicky Case流 3ステップメッセージを一句に絞る
最初に「何を伝えたいのか」を短い問いに圧縮。余計な要素を足さない。
触れる動詞を決める
ドラッグ・クリックなど、読者が操作する動詞を1〜2個に限定して設計。
短く試して磨く
紙やプロトタイプで素早くプレイテストし、フィードバックでルールをそぎ落とす。
そして、こうした「体験型学習」には科学的な裏付けもあります。
STEM教育225研究のメタ分析によると、従来の講義形式は
アクティブラーニングと比較して失敗率が1.5倍高いという結果に。
最初に刺激を受けたサイトがある
03
刺激を受けた Pudding.cool
数年前、The Puddingというサイトに出会いました。
記事って、こんなに面白くできるのか
最初に見たのは、たしかSpotifyの再生データを分析した記事だったと思います。 スクロールするたびにグラフが動き、自分のデータを入力すると結果が変わる。 読んでいるというより、動かしている。
The Puddingとは何者か
The Puddingは2017年に立ち上げられたデジタルメディア。 「文化で議論されるアイデアを、ビジュアルエッセイで説明する」というミッションを掲げています。
創業者は Matt Daniels、Russell Goldenberg、Ilia Blinderman の3人。 元々 Polygraph というデータデザインスタジオを運営していて、 YouTube や Google などの大企業向けにビジュアライゼーションを制作していました。 The Pudding はその編集部門としてスタートしたわけです。
なぜThe Puddingは特別なのか
Russell Goldenberg はこう語っています: 「私たちは The New Yorker のような1万語の記事は書かない。 でも同じように複雑なトピックを、文章ではなくビジュアルで探求する」と。
彼らの強みは「ジャーナリスト兼エンジニア」という稀有な人材構成にあります。 階層的なチームではなく、コレクティブ(集合体)として運営。 各メンバーがテーマを選び、リサーチからデータ分析、デザイン、ライティング、コーディングまで一人で全工程を担当します。
The Pudding の技術スタック
フロントエンド
ビジュアル表現の核。D3.jsとSvelteの組み合わせが特徴的
データ処理
メンバーごとに好みのツールが異なる。RussellはNode、AmberはR派
デザイン
手書きスケッチからFigmaまで、ストーリーに合わせて選択
インタラクティブ地図
地理データの可視化に使用
ポイント:各メンバーが全工程を一人で担当
リサーチ → データ分析 → デザイン → ライティング → コーディング
平均して1プロジェクトに約1ヶ月をかけるそうです。 プロセスの核心は「答えたい問い」を見つけること。 ニュースサイクルやクリックベイトは追わない。 ビジュアルが情報を伝え、かつ楽しませるテーマを選ぶ。
代表作品
彼らの作品を見れば、その哲学がよく分かります。
The Pudding 代表作品
音楽 / 文化分析
Is Love Dead in Pop Music?(2024)
1958年以降のTop 10ヒット5,141曲を分析。ポップミュージックにおける「愛」の変遷を追う。
→ 記事を読む
政治 / データビズ
The United States of Abortion Mazes(2024)
各州の中絶政策の複雑さを「迷路の難易度」で可視化。政策をゲームとして体験させる衝撃作。
→ 記事を読む
映画 / ジェンダー
Film Dialogue by Gender(2017)
2,000本の映画脚本を分析。男女のセリフ量の偏りを可視化した初期の代表作。
→ 記事を読む
音楽 / 言語分析
The Largest Vocabulary in Hip Hop(2017)
ラッパーの語彙力をシェイクスピアやメルヴィルと比較。データジャーナリズムの好例。
→ 記事を読む
音楽 / キャリア
Making It Big(2017)
ミュージシャンが「成功」するまでの軌跡を可視化。夢と現実のギャップをデータで示す。
→ 記事を読む
映画 / ジェンダー
Film Dialogue(2016)
2,000本以上の映画脚本を分析し、男女のセリフ量の偏りを可視化。データで見るハリウッドのジェンダー格差。
→ 記事を読む
↑ カードをクリックすると実際のエッセイへ
特に印象的なのは「The United States of Abortion Mazes」。 各州の中絶政策を「迷路」として体験させるという発想。 政策の複雑さを、文章で説明するのではなく、ユーザー自身に迷わせることで伝える。 これが「Explorable Explanations」の真髄です。
The Puddingは「Making Internet Things」という3部作のガイドも公開しています。 データ処理、デザイン、ストーリーテリングについて、 彼らの手法を惜しみなく共有している。
憧れと現実
「自分もこういうのを作りたい」と思いました。 でも同時に、「自分には無理だ」とも思いました。
D3.js?Svelte?データ分析?デザイン? 「全部できる」人材って、採用市場では"ユニコーン"と呼ばれるやつです。 Nicky Caseはゲームデザイナーとしてのキャリアがある。 The Puddingはフルタイムの専門チームを抱えている。 個人が、本業の片手間に作れるものではない——少なくとも、今までは。
——でも、バイブコーディング時代の今なら、話が違います。
制作体制の変化
あなた + AI
8人 × 数週間
従来
1人 × 週末
バイブコーディング
このブログは、そういう文脈で生まれました
04
rkagaya.postについて
なぜ作ったか
Pudding.coolに刺激を受けて、「こんなのを作りたい」と思った。でも「自分には無理だ」とも思っていた。 Claude Codeを使い始めて、「あれ、もしかしたら作れるかも」と思った。 作ってみたら、思っていたよりもできた。(完璧ではないけど。)
AIとの共同制作
このサイト自体、ほぼ全てClaude Codeで作っています。 デザイン、コンポーネント設計、アニメーション実装—— 自分が「こういう感じにしたい」と言語化し、AIがコードに落とし込む。 その繰り返しです。
この記事も同じ。文章を書いているのは私ですが、 インタラクティブな要素やレイアウトはClaude Codeと一緒に作っています。 つまり、この記事自体がバイブコーディングの実践例です。
何をやるか
AIエンジニアリング、LLMやAIエージェントの話から、プロダクト開発。 このあたりの話題を、インタラクティブな形式で届けます。
コスト計算のシミュレーター、意思決定のフローチャート、データの可視化。 読者が自分の状況に当てはめて考えられるようなコンテンツを目指しています。
正直、まだ道半ばです。この最初の記事のインタラクティブな要素も、まだ基本的なもの。 でも、少しずつ実験していきます。最初から完璧を目指すと、永遠に公開できないので。
最後に
05
作り手が増える世界へ
インタラクティブな記事を作るのに、もう専門家チームは必要ない——とまでは言いません。 The Puddingのクオリティに個人が追いつくのは、まだ難しい。彼らは本物のユニコーンです。
でも、「プロトタイプ」と「公開可能なもの」の距離は、確実に縮まっています。
アイデアがあれば、とりあえず形にできる。 形にすれば、フィードバックがもらえる。 フィードバックをもとに改善できる。 このサイクルが、以前より圧倒的に速く回せるようになった。
私はこのブログで、その可能性を試していきます。
うまくいくかどうかは分かりません。 でも、テキストだけでなくインタラクティブな表現も——「試しながら理解できる」記事を作ってみたい。
次の記事では、もう少し凝ったことをやってみます。ゲーム形式のコンテンツとか入れてみたいですね。